なぜ客がプロデューサーになるのか

握手会やミーグリの「レポ」を眺めていると、時々不思議な会話が出てくる。

「もっとブログ更新した方がいいよ」「今日のダンス、あそこ直した方がいい」「最近ちょっと対応悪くない?」

ファンが感想を伝えること自体は普通だ。問題は、いつの間にか客がプロデューサーや上司の席に座っていることだ。

集英社オンラインは2024年、20歳のアイドルに50代ほどの男性が「若いファンにばかりいい対応をしている」と説教し、本人が泣いたという目撃談を紹介した。元NMB48山田菜々も、握手会でファンが購入した時間を説教に使い、アイドル側は言い返しにくいと語っている。

「応援しているから言う」は、金を払った客が若い女性へ上から話す免許にはならない。

推し活の中にある「客と女の子」の構造

もちろん握手会とキャバクラは別物だ。アイドルは歌い、踊り、作品を届ける表現者であり、ファンの大半もライブや楽曲を楽しんでいる。

ただ、接触イベントだけを切り取ると「現代キャバクラ的」な構造が顔を出す。

券を買えば会話できる。通えば顔を覚えてもらえる。自分だけへの反応を期待する。対応が薄ければ不満を持つ。そして一部は「君のため」とアドバイスを始める。

地下アイドルの現場を扱ったORICONの記事でも、接触を重ねれば認知され、友達のような会話になっていく距離感が記録されている。

商品になっているのは握手だけではない。「自分を知っている若い女性と話せる時間」でもある。

オタクと“説教するおっさん”は本当に違うのか

会社の若手女性や夜の店の女性に「俺が若い頃は」「もっとこうした方がいい」と語る中年男性は、長く揶揄されてきた。

ところが推し活という看板が付くと、似た行為が「アドバイス」「古参だから言える」「成長してほしい」に変換される。

若い娘に上から目線で話し、それでも笑顔で聞いてもらいたい。その欲求に、オタクもおっさんも大差ない瞬間がある。

もちろん年齢や性別だけの問題ではない。男性アイドルに過剰な要求をする女性ファンもいる。実際、男性アイドルにも同種の問題があるとの指摘もある。

本質は「金と応援によって、自分には相手へ口を出す権利が生まれた」と錯覚することだ。

推しは部下でも娘でも、自分が育てた商品でもない。

握手会レポが時々見せてしまうのは、華やかな「推し活」の裏側に残った、かなり古典的な客意識なのである。

出典・編集注記

事実確認(2026年9月29日):集英社オンラインの2024年7月記事で、50代ほどの男性が20歳のアイドルに「若いファンにばかりいい対応をしている」などと説教し、本人が泣いたという目撃談が紹介されていることを確認しました。ABEMA TIMESの2019年記事で、元NMB48山田菜々らが握手会での説教や傷つく言葉、メンバーが言い返しにくい構造について語っていることを確認しました。ORICON NEWSの2013年連載で、地下アイドルの接触イベントがファンとの距離感や継続的な応援に大きな価値を持つと論じられていることを確認しました。個々の握手会レポの真偽や会話全文は検証できないため一般化せず、「現代キャバクラ的」「オタクもおっさんも大差ない」等は筆者の構造的比喩・論評です。画像は特定のアイドル、ファン、会場を再現したものではありません。

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