『ちいかわ』を見ていると、妙に腹が減る。不思議なのは、料理が写実的に描かれているわけではないことだ。ラーメンもお菓子も、グルメ漫画のように湯気や脂を何コマも使って描写するわけではない。それでも食いたくなる。

理由は、ハチワレとモモンガが『うまい』をちゃんと言葉にするからだ。

食レポとは、食べた瞬間に自分の口と身体で起きたことを、他人にも想像できる言葉へ変換する仕事だ。

ハチワレは、味を分解する

ハチワレは意外なほど分析型である。カップ焼きそばで湯切り前にソースを入れてしまった時も、『薄味だけど麺の味感じるね』と受け止める。普通なら失敗した作り方で終わるのに、その食べ方もありかもしれないと思わせる。

これ、普通の食レポでも大事だ。『濃厚です』『おいしいです』では視聴者は何も分からない。塩味は弱い。でも、その分だけ麺そのものが立つ。何が強く、何が弱いのか。ハチワレは短い言葉で料理を分解する。

モモンガは、比喩で身体まで動かす

一方、モモンガは比喩型だ。硬め・濃いめ・多めのチャーシュー麺に、ニンニクどっちゃり、バターまで乗せて出てくるのが、『血液が塩味を帯びそうだッ』である。『かなり濃いですね』より、百倍食いたくなる。

もちろん医学的な説明ではない。でも、舌だけでなく身体全体へ塩分が回ったような感覚まで一発で伝わる。この台詞は、公式グッズの商品名にもなった。それだけ食後感とキャラクターが同時に立つ言葉だったということだ。

料理の説明に、人格を乗せる

これは偶然ではなさそうだ。ナガノは『MOGUMOGU食べ歩きくま』という食べ歩きイラストエッセイも描いている。講談社が『読むとお腹が減ってどこかに行きたくなる』と紹介するほど、食べた感覚を絵と言葉にすることが得意な作家である。

しかも、キャラクターごとに方法が違う。ハチワレは観察して味を分解する。モモンガは欲望と身体感覚を強烈な比喩にする。ちいかわやうさぎは、言葉より顔や勢いで『食いたい』を伝える。語彙を増やすのではなく、その人物なら何に気づき、どう言うかを絞る。だから料理の説明と人物描写が同時に成立する。

食べる人の違いが、そのまま味の違いとして立ち上がる。だから同じ一杯でも、誰が食べるかで別の料理に見える。

『うまい』を言わずに、うまそうにする

テレビの食レポがつまらなくなるのは、全員が『柔らかい』『口の中でとろける』『素材の味が生きている』と言い始めた時だ。聞き慣れすぎて、もう何も見えてこない。食レポは料理を褒める仕事ではない。食べた瞬間、自分の口と身体に何が起きたのかを、他人にも想像できる言葉へ変換する仕事だ。

その点で『ちいかわ』は異常にうまい。丸い絵柄で、湯気も肉汁も大写しにしないのに腹を減らせる。『うまい』を連呼しなくても、うまそうにできる。ハチワレは分析し、モモンガは比喩で殴る。食レポを学ぶなら、グルメ番組より『ちいかわ』を見た方が早いのかもしれない。

出典・編集注記

カップ焼きそばの場面はアニメ『ちいかわ』第288話「カップ焼きそば/焼きそばごはん」と原作の描写を参照しました。「血液が塩味を帯びそうだッ」は2023年12月21日公開の原作回およびアニメ第342話「ラーメン『山』/緊張」でモモンガが口にする台詞で、ちいかわマーケットでは同文言を商品名にした公式グッズも販売されています。『MOGUMOGU食べ歩きくま』と紹介文は講談社公式ページを参照しました。登場人物ごとに食レポの方法を変えている、という部分は作品表現を材料にした編集部の批評です。カバー画像は公式画像や既存の漫画・アニメの場面を複製したものではなく、記事テーマを表した生成イラストです。

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