『ちいかわ』を読んでいて、ずっと気になる存在がいる。

鎧さんたちだ。

ポシェットの鎧さん、労働の鎧さん、ラーメンの鎧さん。彼らはちいかわ族と同じ世界にいるのに、明らかに立場が違う。

労働を斡旋する。報酬を渡す。討伐を制度化する。店を開く。物を作って売る。料理まで教える。フジテレビ側も、労働の受付、ラーメン店など鎧さんごとの役割を紹介している。ポシェットの鎧さんは、すき焼きの作り方までちいかわたちに教えた。

生かしているのではなく、生き方を覚えさせている。

もしかして鎧さん、ちいかわ族を「文明化」してない?

ちいかわ族は基本的に弱い。

怪物に襲われる。でかつよ級の存在には捕食されかねない。食料も、自然に湧く場所へかなり依存している。

もし鎧さんが来る前の世界を想像すると、もっと原始的だったのではないか。

湧いたものを食べる。枯れたら移動する。天敵が来れば逃げる。逃げ切れなければ食べられる。

そこへ鎧さんたちが来た。

草むしりを仕事にする。討伐すれば報酬が出る。資格を取れば稼ぎやすくなる。食材を料理する。作った物を貨幣で売買する。さらにラーメンの鎧さんの下では、シーサーが資格を取って働いている。

狩猟採集に近かった生き物へ、労働、貨幣、資格、商業、外食産業まで一個ずつ実装しているように見える。

しかも鎧さん自身は、少なくとも作中で討伐の主役ではない。危険な仕事はちいかわ族へ渡し、受付と報酬とルールを整える。戦士というより行政だ。

少し乱暴に言えば、軍の民生支援に似ている。

外から来た集団が、先住の人々へ農業や商売、自衛、衛生といった生活技術を渡し、最終的には自分たちがいなくても社会が回る状態を作る。

もちろん、鎧さんが外から来たとも、そんな目的があるともナガノは明言していない。あくまで考察だ。

ただ、彼らは不思議なくらい「全部やってあげる」ことをしない。

討伐するのはちいかわ族自身。働くのも、資格を取るのも本人たち。ラッコもハチワレたちへ実戦を教える。

生かしているのではなく、生き方を覚えさせている。

しかもポシェットの鎧さんは、ちいかわたちと親しくしすぎて「仲良くしすぎだ」と上位の鎧さんに注意される。

同じ住民なら、なぜ仲良くしてはいけない?

ここに「支援する側」と「支援される側」という線引きがあると考えると妙に腑に落ちる。

彼らは友達として来たのではなく、この土地に社会を作るために来たのかもしれない。

いつか鎧さんがいなくなっても、ちいかわたちは働き、飯を作り、物を売り、怪物を倒して生きていける。

つまり鎧さんは、食料を与える支配者ではなく、食料を自分で得る仕組みそのものを渡している。

『ちいかわ』で描かれているのは、可愛い生き物の日常ではない。

原始社会が、少しずつ国家になる途中なのかもしれない。

出典・編集注記

TVアニメ『ちいかわ』公式サイトで、原作がナガノ作品であること、ポシェットの鎧さん・労働の鎧さん・ラーメンの鎧さん・ラッコ・シーサーの登場を確認しました。すき焼き作りは公式アニメ第113話、ポシェットの鎧さんが注意される場面は第114話『仲良くしすぎだ』、シーサーとラーメンの鎧さんの関係は第123話『スーパーアルバイター①』の公式案内を参照しています。ラーメンの鎧さんが店『郎』の店主であることは作品公式情報に基づく紹介記事でも確認しました。一方、鎧さんが外来者である、ちいかわ族を意図的に文明化している、行政や軍の民生支援に相当する、世界が国家形成の途中にある、という見方は公式設定ではなく、作中描写を材料にした編集部の考察です。

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