歌が映画より先に来る
Adoの新曲『Raven Sky』が10月16日に配信される。10月23日公開の三池崇史監督作『バッド・ルーテナント:トウキョウ』の主題歌だ。小栗旬主演の日米合作映画で、9月にはトロント国際映画祭で上映された。曲は宅見将典が作曲、岡嶋かな多とSeann Boweが作詞を担う。10月9日にレーベルと所属事務所が発表した。
映画の一週間前に歌を出せば、観客は物語に入る前から結末の温度を想像する。Adoの声を宣伝の入口にする効果は大きい。しかし先行配信を映画の国際性の証明書として扱うのは危うい。複数国の制作者が並ぶことと、作品の視点が複数になることは別だからだ。
名前の豪華さは批評にならない
公式資料には小栗旬のほか、リリー・ジェームズ、間宮祥太朗らが並び、海外配給にも触れる。三池崇史の映画を世界向けと呼びたい宣伝はわかる。Adoの曲にも海外経験のある宅見、岡嶋、Seann Boweを迎えた。それぞれの実績は確認できるが、肩書を足し算しただけで曲と映画の必然が生まれるわけではない。
そもそも『バッド・ルーテナント』という題名は、権力を持った人物の腐敗を物語の中心に置く。派手な音楽で危険な主人公を格好よく包めば、批判の刃が鈍る恐れもある。一方で、主題歌が物語の快楽を裏切り、観客を不安のまま劇場から出す可能性もある。曲の使い方は映画公開後に確かめたい。今は演出の効果を断定できない。
曲の役割を公開後に問う
Adoはアニメや映画との結びつきで届く範囲を広げてきた。タイアップは作品への入口になるが、歌手の名前で映画の議論を代行させる仕組みにもなる。『Raven Sky』を聴きたい人と、悪徳警官の物語を見たい人は必ずしも同じではない。その差を埋めるのが主題歌の仕事なら、宣伝の再生数より映画の余韻との摩擦が重要だ。
小栗旬と三池崇史の組み合わせも、既存のイメージへ頼りやすい。暗い警官、歌舞伎町、国際共同制作という単語は強いが、危険な街を異国情緒として消費するだけなら古い。主題歌の作詞に複数の視点を入れるなら、映像が誰の目で街を見るのかも問われる。
映画の公式サイトは失踪した次期大統領の娘を探す筋を示す。そこへAdoの歌が重なる時、中心に置かれるのが捜索される女性なのか、追う男の陶酔なのかで響きは変わる。物語の詳しい展開を知らない現段階では、どちらかを決めつけず公開後の接続を待つ。
公開前の映画を『刺激的な傑作』と断定する宣伝文句はすでに強い。そこで新曲まで世界規模と強調すれば、観客は見聞きする前から評価の方向を渡される。作品を期待させるのは宣伝の役目だが、評価まで先取りする必要はない。曲単体としても映画の一部としても、問いを残す余地を守ってほしい。Adoの声を海外市場へのパスポートとして掲げるな。歌が映画の危うさを増すかどうかで、起用の意味を測れ。
出典・編集注記
出典(2026年10月10日確認):Adoのレーベル、所属事務所、映画公式。配信・映画公開日と制作陣を照合。未配信曲の出来や未公開映画の映像は評価していません。画像は出演者・映画場面の再現ではありません。






レスポンスを読み込んでいます…